プリズン・ブック・クラブ

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プリズンブッククラブは、カナダの刑務所の中で行われた読書会について書かれたノンフィクション作品です。
著者は、本好きだということで友人から刑務所で行われる読書会のボランティアをやらないかと誘われます。
しかし、彼女は暴漢に襲われた経験があり、それがトラウマになって最初は刑務所に行くことを躊躇するのですが、亡き父親の口癖だった「人の善を信じれば相手は必ず応えてくれる。」という言葉を信じて読書会のボランティアをするようになります。

この本のメイントピックは、色んな本を読んで読書会で話し合うことによって受刑者たちが自分の人生について考え、社会復帰していく過程を描き出すことです。
受刑者は、社会から拒絶され、まっとうな人生が送れなかった人たちです。
だからこそ、本の中の登場人物の苦悩に敏感に感じることができて、作品に対する鋭い批評精神を発揮します。
この読書会は、自由参加で課題の本を読んでくることが条件なのですが、一般人が行う読書会でも難しいのに、受刑者たちはお互い励ましあいながら会を運営していきます。

では、課題となった本をいくつか見ていきましょう。

「ニグロたちの名簿」という本は、奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人の少女の人生をテーマにした本です。
受刑者はマイノリティが多く、主人公に共感するところも多かったため、受刑者からいろんな感想が出てきます。
そこで、この本の著者を読書会に招待しようという話が出てきて、著者に連絡するのですが、最初は断られます。
しかし、著者は自分の作品を深く読み込んでいる受刑者たちのことを知り、感動して参加してくれるようになりました。

ところで、受刑者というと異常者や粗暴な人だと思われがちですが、実際は普通の人がほとんどです。
彼らが刑務所に来たのは、ドメスティックバイオレンスやネグレクトなどで家庭が崩壊していたり、悪い仲間にそそのかされて悪い道から抜けられなったなど誰でも起こりうることが原因になっています。
しかし、ほとんどの受刑者は自分の行ったことを後悔していて、まともな生活ができるよう社会復帰したいと思っています。
したがって、刑務所で資格を取ったり、大学に行く準備をしたり将来のために努力している受刑者がとても多いのです。
意外かもしれませんが、「天才!成功する人々の法則」みたいな自己啓発的な本も結構読まれています。

また、不幸な生い立ちがテーマになっている本も受刑者には印象深かったようです。
「月で暮らす少年」は、まれな遺伝病の息子を育てる父親の話です。
障害者を持つ家族の苦悩は、不幸な環境で生きざるを得なかった受刑者にとってはとても共感するところが多いので、様々な感想が語られます。

第2次世界大戦のナチスドイツに迫害されていたユダヤ人の話「ガーンジー島の読書会」も、ドイツ兵を欺くために読書会を開催する話で、虐げられた人々がどんなことを思っていたのかが話題になります。
また、「ユダヤ人を救った動物園」はユダヤ人を動物園にかくまって迫害から守ろうとした人々についての物語です。
どちらの話も、ひとつ間違えば自分の命が危ない状況で人を助けようとする勇気を受刑者たちは賞賛します。

「またの名をグレイス」という本は、カナダで実際にあった殺人事件を元にしたミステリー小説です。
グレイスという女性は殺人の容疑者として逮捕されますが、自分はやっていないと警察で主張します。
この物語では、受刑者は自分たちと重なるところも多いので色んなことを考えます。
グレイスは本当に殺人をしたのか、どんな気持ちで刑務所で暮らしているかなど主人公になった気持ちで自分たちのことを振り返るところが圧巻です。

この本を読んで思ったのは、本を読むことは自分自身について考えるきっかけになるんだなと思いました。
受刑者たちは、本の中の人物に共感し、自分だったらどう感じるだろうかと考えます。
それによって、人への共感力が増し、自分たちの人生について考えるようになっていきます。
このコリンズベイ刑務所で始まった読書会もいまやカナダの多くの場所で行われているらしく、受刑者たちの社会復帰に効果を上げているとのことです。

昔、ある会社の重役と飲んだとき、彼は「俺は小説は読まない。作り話だから。」と言いました。
作り話なんか読んでも時間の無駄だと考えていたのでしょう。
しかし、小説を読むことによって自分自身を振り返り人生を豊かにすると私は思います。
だから、コリンズベイ読書会も広がっていったのでしょう。
そんなことを感じさせられるいい本でした。

この本で紹介されている本は全てが翻訳されているわけではありません。
この書評で取り上げた本をリストアップしてみました。

その他にもこんな作品もとりあげられていました。
いくつかノンフィクションも入ってました。

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