人の心を忘れた社会

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photo credit: The Garden of Now via photopin (license)

私は本屋さんが好きなので、結構ひんぱんに本屋さんに立ち寄ります。
私が本屋さんで一番おもしろいと思うのは、今世の中でどういうことが起こっているのかがわかることです。
リーマン・ショックが起こった後のころは金融やマルクスの本が沢山出版されていましたし、東日本大震災の後は原発やエネルギー関連の本がたくさん出ていました。

私はあまのじゃくのせいか、あまり売れている本には興味がわかず、隅のほうでひっそりと陳列されている本になぜか惹かれることがあります。
最近読んで感銘をうけた「第3の組織論」という本も何回もスルーしてたのですが、ずっと気になってたので買って読んでみるとまさに共感する内容の本でした。

「第3の組織論」は50年前にソニーの厚木工場の工場長の方が書いた本だそうですが、内容は今の時代でも通用する内容でした。
むしろ、今の時代の企業のほうが退化しているのではないかと思うくらい新しい気づきをさせてくれる内容でした。
そして、この本を読んで一番思ったのは、昔の人のほうが人の心をわかっていたということでした。

私の社会経験でも仕事していて一番つらかったのは仕事に失敗した時でした。
会社の仕事は一人ではできるものではなく、他の人との協力やその他いろんな条件がそろってはじめて実行できるものです。
しかし、担当者が仕事で失敗すると、個人の能力がなかったからといって個人を責めて仕事からはずすマネージャーがほとんどです。

しかし、ソニーのこの方はそんなムチャぶりした自分にこそマネージャー能力がなかったとして担当者に謝ったそうです。
そして、なんとか仕事からはずれるよう説得するのですが、たいていの人はもっとがんばりますと言うそうです。
しかし、会社にとっても本人にとっても良くないことだと思ったら何日かけてでも相手が納得するまで説得したそうです。
私はこのマネージャーは人の心がわかってるなと思いました。

一生懸命仕事をやってたのにお前はもういらないと言われたら、誰も一生懸命仕事をしようとは思わないでしょう。
そんなことは、自分が同じことをされたらどう感じるか考えられる人ならわかるでしょう。
しかし、社会が豊かになり組織に守られて平穏無事に生きている人が増えてくると、人の心に共感する能力が劣ってくるのかもしれません。
今の日本企業のマネージャーに一番必要なのは、人の心を理解し共感する能力だと思います。

また、現代の教育も人の心を理解しようとしない代表例だと思います。
今の日本の教育システムは、西洋の国家を担うエリートを選抜するシステムをまねて作られています。
戦争と植民地拡大に明け暮れていた20世紀の西洋諸国には、他国に勝つために優秀な人材を獲得するために必要なシステムだったのでしょう。
しかし、学ぶことに喜びを感じることもなく、延々とテストで順位付けされることにうんざりする人がほとんどだったのではないでしょうか。

そして、成績が悪いと個人の努力や能力が足らないからだと責められます。
これは、企業のマネージメントと同じ構造です。
そういう対応をする学校にいい印象を持つ人はいないでしょう。
学者の人は、よく一般庶民は愚かで私達のいうことを理解できないといいますが、本当でしょうか?
私は、その前に感情的な壁があるのではないかと思っています。
誰も気に入らない人の話は聞きたいと思いません。
学校でひどい目に会った人が、その代表みたいな偉い先生に反感を持つのは自然なことなのかもしれません。

しかし、人間には共感する能力があります。
人間の脳にはミラーニューロンという神経細胞があり、相手の精神状態と同じように反応する性質があります。
例えば、実験で脳にセンサーをつけてモニターしている猿に、別の猿が手を動かしている様子を見せると、手を動かすための神経細胞が反応します。
もちろん、ミラーニューロンがあるからといって、他者と共感できるという理由にはならないかもしれません。
しかし、相手がどう感じているかを推し量る能力は、共感するためには必要な能力だと思います。

どんなに科学技術が発達しても、社会が変化しても人の心はそんなにかわるものではありません。
そのことを50年前の企業の経営者は知っていたのかもしれません。
50年前どころか、2500年前のギリシャ悲劇「オイディプス王」を読んでもそう思います。
オイディプス王が、自分の国から追われて出て行くときに付き従ってきた娘たちには感謝し、見捨てた息子たちには怒りを感じます。
自分さえよければいいという振る舞いをしていると相手が怒るのは当たり前で、これから社会が変わっても人の心のあり方は変わらないでしょう。

確かに、昔に比べると科学技術が進み、物質的には豊かな社会になりましたが、その代わり人の心をないがしろにするようになってきている気がします。
こういう時こそ昔の人達の叡智を学んで、現代の社会で活かすべきではないでしょうか。