受託開発は敗者のゲーム

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photo credit: rednuht via photopin cc

・ ある会社で見たもの

以前、ある会社で仕事をしていたとき、30年以上も使われているシステムがありました。

それはその当時でも現役で使われていて、その会社の利益の源泉を生み出しているシステムでした。

それを見て、ソフトウェアというのは劣化しない、いつまでも使えるものなのだということを思い知らされました。

そして、ソフトウェアをモノのように売るビジネスはだめだと思いました。

もちろん、開発した会社には開発費用を払ったと思いますが、そんなに長い間使われたらソフトウェアビジネス自体が成り立たなくなると思ったからです。

ソフトウェアを作るというのは結構大変な作業です。

にもかかわらず、受託開発だとそれを特定の企業のために行うので、開発側は単発で終わってしまうことが多くビジネスが広がることがありません。

そういうビジネスのやり方はソフトウェアを扱うには向いていないのではないかと感じました。

・ ソフトウェアの本質

日本では多くのIT企業、特に中小企業が受託開発を行っています。

統計によると日本のIT業界の8割の会社が受託開発をメインに行っているようです。(人材派遣という形態を取る場合も多いですが。)

私がプログラマーだったころ、さんざん受託開発をやりましたが、本当にハードワークでした。

(かなり昔なので今は少し変わってるかもしれませんが。)

ビジネスとしても、特に中小企業は資本力がないのですぐお金になる受託開発は会社をまわすためには必要なビジネスです。

しかし、受託開発は長期的に見ると必ず負けるゲームだと思います。

それは、ソフトウェアが車や家電製品などの普通の商品と違うからです。

では、どういう点が違うのでしょうか?

  • ソフトウェアは劣化しない(永遠性)

通常、モノは使っているうちにすり減ったり、壊れたりします。

しかし、ソフトウェアはそういうことがありません。

使おうと思えば永遠に使うこともできます。

ハードが壊れてリプレースしなければいけないことはありますが、ソフトウェア自体はずっと使えるでしょう。

(新しいハードにあわせてプログラムを修正しなければいけないことはあるかもしれませんが。)

会計的には減価償却というのがあって、あらゆるものは年を経るごとに価値が下がることになっています。

ソフトウェアもそのように扱われますが、実際はソフトウェアの価値は年と共に減らないのでバランスシートが本当の状態を表していない典型的な例でしょう。

ソフトウェアの減価償却

  • 無限にコピーすることができる(無限複製性)

ソフトウェアはいくらでも複製できます。しかも、コストはほぼ0です。

車や家電製品などの通常の商品はコピーしようとすると莫大なコストがかかります。

したがって、自分で複製するよりも企業から買うという行動になりますが、ソフトウェアは自分で複製できます。

もちろん、企業はコピープロテクトや知的所有権などで守っていますが、ソフトウェア自体がコピー可能な性質を持っているので不正コピーを完全に防ぐのは難しい状況です。

さらに、無償でコピーOKなオープンソースソフトウェアの登場によりプロプラエタリなソフトウェアの立場はより厳しくなってきています。

  • ほぼコスト0で世界中に配布することができる(配布無費用性)

通常の商品は顧客に届けるまでに多大なコストがかかります。

宅配会社などを使った物理的な配送だけでなく、サポートや故障対応の拠点を作ったり、支社や現地法人を作る必要があります。

しかし、いまやソフトウェアはインターネットを介して世界中にほぼコスト0で配布できます。

海外だと言語の問題はありますが、ユニコードやプラットフォームの多言語化によってかなり解決されています。

こうみると映画や音楽などのコンテンツと同じように見えますが、コンテンツは基本的に個人が楽しむために買う最終消費商品です。

(配給会社などがそれを使ってビジネスをすることもありますが。)

それに対してソフトウェアはそれによって利益を生み出せることができる商品です。

つまり、企業や個人がそれを使って業務を効率化したり、サービスを提供して利益を上げることができるというところが違います。

したがって、コンテンツよりもソフトウェアの方が社会に対するインパクトは大きいと思います。

・ 受託開発というビジネスモデル

そういったソフトウェアの特徴をふまえて、受託開発を考えてみます。

最初にお話しした30年使ってた会社の例のように、ソフトウェアは一度作ってもらえればあとは劣化することなく事実上コスト0で永遠に使うことができます。

つまり、同じ顧客からまた仕事がもらえる可能性は低いということです。

したがって、受託開発会社はプロジェクトが一つ終われば新たな案件を探すことになります。

そして、それぞれのプロジェクトが単発なのでビジネスとして広がることはありません。

次に、ソフトウェアは誰でもほぼコスト0で複製することができます。

したがって、ユーザーがシステムのスケールアウトしたい場合は、簡単にソフトウェアをコピーして増やすことができます。

(コンピューターやディスク装置などを追加で必要になるかもしれませんが。)

パッケージ製品であればライセンスの追加購入という手を使えますが、受託開発だと一般的ではないでしょう。

なので、開発企業は初期開発費用しか取れないという状況になりがちです。

最後に配布コストが0の点ですが、これはソフトウェアを扱うメリットですが受託開発だとこのメリットが利用できません。

なぜなら日本の受託開発の場合、国内企業のみを相手にしている場合がほとんどだからです。

せっかくグローバルでビジネスできる製品を扱っているのにその特徴を利用していないということになります。

さらに日本人にとって英語が障壁となって海外に出にくい状況があります。

このような状況をマクロ的に見た場合、多くの企業が受託開発を行い、ある程度の需要が満たされたら、案件は急速になくなっていく結果となります。

このように日本で受託開発ビジネスを続けることはかなり難しいことがわかってきます。

最近では中国やインドへの開発のアウトソースやセールスフォースなどのSaaS化など海外からの攻勢により、国内だけで受託開発をすることはさらに厳しくなってきています。

確かにIT業界はイノベーションが頻繁に起こるので新たな需要が生み出される場合もありますが、キャズムを超えるイノベーションは限られていますし、技術の入れ替わりが速すぎる状況も現場の人々に負担をかける結果になっています。

もともと、資本主義経済は農作物や衣服など消費されると劣化してだめになっていく製品や消耗品を主にやりとりするために発展してきました。

劣化する商品は壊れたりダメになったりしていつか買い替え需要が出てきますし、消耗品は常に需要が発生する商品です。

現代の企業を見ても、洋服を売っているユニクロやインクを稼ぐネタにしているプリンターメーカーなどが資本主義社会で親和性が高いのがわかります。

一方、ソフトウェアは一度作ったら壊れたり磨耗したりしないので需要が繰り返し出てこない特徴があります。

マイクロソフトなどのパッケージソフトベンダーは頻繁にバージョンアップをしたり、クライアントライセンスで追加料金を取っていますが、Windows XPを使っている人がまだ多い状況を見るとあまり資本主義経済向きの製品ではないことがわかります。

・ これからのソフトウェアビジネス

このようにソフトウェアをモノとして売ることには明らかに無理があります。

ではソフトウェアの特質(永遠性、無限複製性、配布無費用性)を生かしたビジネスモデルはどのようなものが考えられるでしょうか。

  • ソフトウェアをサービスとして売る

ソフトウェアを製品として売るのをやめて、サービスとして売ります。

サービスなので開発費用を請求するのではなく、月々の利用料などの形でお金をいただきます。

そうすれば定期的に収入が発生して会社の経営も安定するでしょう。

もちろん受託開発のように特定の顧客の要求の応じてサービスを提供することもできますが、ビジネス的にはあまりおいしくありません。

それよりもある程度顧客数が見込めるサービスを開発してできるだけ多くのユーザーに使ってもらうほうがいいでしょう。

  • クラウドを利用したオープンソースソフトウェアを中心としたウェブ技術を利用

ユーザーが増えてくるとサーバーを増やしたり、ディスク容量を増強する必要がでてきます。

しかし、いまや多くの企業から提供されているクラウドサービスやVPSサービスを利用すればサーバーのハードを買わなくてもよくなりました。

また、ウェブブラウザ上で動くようにしておけば顧客側PCにアプリケーションをインストールしてもらう必要はありません。

最近ではスマートフォンやタブレットがクライアントとなり、専用アプリを使うことが増えてきました。

しかし、専用アプリもHTML5などのウェブ技術を使えば、これらの機器への横展開もすばやく行うことができます。

(ただし、ウェブUIは色々制約があるので用途に応じてウェブか専用アプリを選択する必要があります。)

そして、サーバー側をオープンソースソフトウェアで構成しておけば、ユーザーが増えてスケールアウトしなければ行けない場合でも追加ライセンスなどの費用をかけずにできるようになります。

(クラウドサービス等で追加インスタンスの費用は発生しますが。)

ただ、オープンソースは多くの人たちの善意によって成り立っていることを忘れてはいけません。

なので、オープンソースを使ってメリットを享受したユーザーはなんらかの形で自分もオープンソースに貢献すべきだと思います。

貢献といってもソフトウェア開発だけでなく、ドキュメントを書いたり、いろんな人に教えてあげたり、できることでいいのでなんらかの貢献をみんなが行えばいい循環で発展していくと思います。

  • ソーシャルネット的な機能を組み込んで、バイラルマーケティング

最近はFacebookやTwitterなどのSNSが普及して、口コミが広がりやすくなりました。

これは企業、特に営業力を持たない中小企業にとっては非常にいい環境になりました。

したがって、ソフトウェア自体にソーシャルネット的な機能を組み込んで顧客が顧客を呼ぶしくみを入れておけば営業コストをかなり低くすることができます。

そして、ローカライズすれば世界にビジネス展開できる可能性もあります。

こういうモデルはいまさらと言う感じですが、ソフトウェアの特質をふまえた上で考えてみると、また違う見方になるのではないでしょうか。

有名な投資の本で「敗者のゲーム」という本がありますが、ソフトウェアの受託開発はまさに敗者のゲームだと思います。

受託開発は確実にお金になるのでビジネスとしてやっていけそうに思われますが、ソフトウェアの性質を考えると長期的には負ける可能性の高いビジネスです。

これからいよいよ経済がグローバル化していくので、国内だけで受託開発を行うことは難しくなるでしょう。

幸い、クラウドサービスとSNSの普及によりITビジネスが資本のゲームから知のゲームに変わりつつあります。

なので中小企業でも世界を相手にビジネスすることも可能になってきました。

これからはそういう環境で新しいITビジネスを考えていく時期になったのではないでしょうか。

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