豊かさの誕生

「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史 「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史
ウィリアム バーンスタイン William J. Bernstein 徳川 家広

日本経済新聞社 2006-08
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 現代の人類は歴史上かつてない豊かさを享受できるようになりました。

それは現在の世界の人口が60億人を突破している状況からも明らかです.

この豊かさは産業革命以降の科学技術の進展によってもたらされたと多くの人が考えているようですが、著者はデータに基づいて豊かさの根源を分析しています。

 確かに産業革命以降生産性は向上しましたが、それは現象のひとつでしかなく豊かな社会をつくり出すには以下の4つの条件が満たされないと実現しないと主張します。

1 私有財産権の確立

 かつて土地は共有のものでした。人々が狩猟をしていた時代には狩猟する場所は誰の物でもなくみんな好き勝手に獲物をとっていました。

その後農耕社会になっても土地の囲い込みが行われない時代はまだ共有地として扱われていました.

しかし共有地はだれもメンテナンスをして価値をあげようというモチベーションが起こりません.

そこで私有財産権が確立すると土地改良したり建物を建てたりと人々は努力するようになりました。

この私有財産権が法律的に保証されてはじめて自由主義的資本主義社会が誕生するのです。

2 近代資本市場の成立

 何かアイデアがあってもお金がなければ実現することができません。

通常アイデアを持っている起業家が資本を持っていることのほうがまれです.

例えば蒸気機関を発明したジェームスワットは蒸気機関を構想してから10年もたって初めて製品を作ることができました。

これはたまたま理解のある資本家と知合いになれたから実現できたものでこの偶然がなければ世紀の発明はもっと時間がかかったかもしれません。

必要な人に必要な資本が回る社会でないと富を生み出すことができません。

旧ソ連のような計画経済ではイノベーションには対応できないということですね。

3 科学合理主義の確立

 中世のヨーロッパはキリスト教教会が強い権力を持っていて科学の進展をことごとくさまたげていました。

例えば天体の動きは神の意志によって決まっているとされていたのがコペルニクス、ガリレオによる天動説によって星は科学的法則によって厳密に予測できることが証明されました。

しかしキリスト教会はこれらを異端者として罰しようとしました。

当時の科学者はこのような弾圧をかわしながら研究をするしかなかったのですが、このころにはキリスト教会は弱体化していてその後まもなく権威は失墜することになります。

富を生み出すためには迷信なんか信用していたらだめだってことですね。

4 通信、輸送手段

 ビジネスでは物が売買されます。そのためには輸送手段が必要になります。

アメリカがイギリスから独立して経済が伸びるきっかけになったのが運河の建設でした。

エリー運河と呼ばれる運河は全長580kmにもおよぶ大運河です。

当時発明された蒸気機関の登場もあいまって物の運搬がかつてないほど速くなりました。

この運河によってニューヨークが大都市になっていきます。

また通信が発達することも富を増大させました。

電信が発明されて瞬時に情報を送ることができるようになると株などの金融取り引きが活発になり経済が発展していきました。

 最初に私有財産権が確立するのは古代ギリシャだったのですが、やはり早すぎたのでしょう。

ギリシャ没落とともに資本主義の芽が育つことはありませんでした。

その後本格的に私有財産権が確立されるのは1600年代のオランダでした。

しかし資本主義誕生の主役はその後発展するイギリスです。

イギリスが自由主義的資本主義に移行するきっかけとなったはマグナカルタです。

これは簡単にいうとどうしようもないばかな王様を貴族たちが法律でしばろうとしたものでした。

しかしマグナカルタによってイギリスは法治国家になります。

そして法の元ではみんな平等という画期的な社会が生まれます.

 現在のイラクやアフリカを見てもわかるように法治国家でないと資本主義は生まれません。

役人や泥棒にかすめとられるような社会では誰も努力して働こうとは思わないですものね。

世界の貧しい国は私有財産権すら確立していない国が多いのは納得がいきます。

 日本は明治維新以前は富を生み出す4つの条件のどれも満たしていませんでした。

徳川家康が元凶ですが、日本を鎖国してガラパゴス諸島のようにしてしまったためにこれだけ遅れてしまったのでしょう。

しかし、明治維新後は奇跡的に4つの条件を満たしていきます。

通常は旧体制の人々によって邪魔をされるものですが、比較的スムーズに移行できたのは世界でも稀のようです。

ただ産業を起こし起業家を重用した明治前期はすばらしかったのにその後は列強の物真似で植民地政策に走ってしまったのが国を破滅に追いやってしまいました。

この教訓を日本は忘れてはいけないですね。

 著者は国はまず人々が豊かになって、その後民主主義が生まれるといいます。

今のイラクみたいに生活が不安定な人々が多い国では民主主義は根付きません。

そういう意味では中国は近い将来民主主義に移行する可能性は高い国です。

有史以来一度も選挙をしたことがない国ですが、もうすぐ共産党一党独裁はなくなるかもしれません。

 この本を読んで豊かさを実現するには人々の起業家的な意志が一番大事なんだと思いました。

蒸気機関のワットや電信のモールスなどの起業家によって当時の経済は大きく発展しました。

最近ではPCやインターネットによるIT革命によって新しい産業が勃興しました。

起業家が活躍するためには私有財産が保証されて、資本調達が容易で科学的合理性を重視して輸送通信インフラが整っている必要があるってことですね。

今の日本は法曹界が旧態以前ですが私有財産の保証と言う点では平均点くらいでしょうか。

通信インフラや輸送は大丈夫でしょう。

科学合理性に関してはちょっと疑問符かもしれません。

資本市場はいま改善の途中という感じでしょうか。

そういう意味では日本もいい線をいってるのかもしれませんね。

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